
WORLD JOURNEY · ETHIOPIA
カファの森と、ジェブラの虹
目次
星のカケラが指した場所
ある静かな夜、ナイトオウルカフェの窓を、一筋の流れ星が横切った。
ボブは注ぎかけのコーヒーを置き、窓辺に近づいた。星が消えた方角には、小さな光がまだ残っているように見えた。
古い伝説に、星のカケラの話がある。心を癒し、コーヒーの味を深める不思議な力。その光を探しに行ったボブが手にしたのは、手のひらに収まる、小さなカケラだった。
翌晩、ポピー、ジョン、サム、ニュースがカフェに集まった。テーブルには5つのカップと世界地図。カケラを地図の上に置くと、淡い光がエチオピアのあたりを照らした。伝説のコーヒーチェリー、『ジェブラの虹』が眠る場所だ。

「見つけたら、どんな味がするんだろう」。ポピーが身を乗り出す。サムはカップを両手で包み、ニュースは古い伝説をノートに書き留めた。ジョンは眠そうに地図を見つめながら、「遠そうだね。途中で休憩は、あるよね」とつぶやいた。
旅を手伝ってくれるのは、道を見つける不思議な目を持つルーカスと、彼の魔法のコーヒーバス。5匹は荷物とカップを積み込み、まだ知らない一杯を探す旅へ出発した。
地図にない森の道
コーヒーバスがゆっくり空を進むうち、窓の下の緑は、深い森へと変わっていった。
カファの森が近づくと、エンジンの音も少し静かになる。バスは木々の間の開けた場所へ、ふわりと降り立った。
扉を開けると、湿った土と葉の匂いがした。鳥の声が、遠くから近くから聞こえる。5匹はバスを降り、ルーカスと一緒に歩き始めた。ポピーは早く先へ行きたくて、何度も振り返る。ジョンは一歩遅れて、足元の柔らかな土を確かめていた。
ところが、道は歩くたびに枝分かれした。さっき見たはずの木が、別の場所にも立っている。ルーカスは立ち止まった。「ここから先は、精霊たちの道だ。僕の目だけでは、進めないらしい」
ニュースが近くを歩く老ヤギに声をかけた。『ジェブラの虹』を探していると聞くと、老ヤギは木々の奥を見た。「この先の農園に、長老エサヤがいる。だが、場所を聞くだけで見つかるものではないよ」
老ヤギの示した道を進むと、古いコーヒーの木々に囲まれた農園が現れた。

年老いたゾウのエサヤが、静かに5匹を待っていた。
森の声を聞く
「どうして、ジェブラの虹を求める?」。
エサヤの問いに、ボブは少し考えた。「飲んでみたいんです。でも、それだけじゃなくて。この森が、どんな一杯を育てるのか知りたい」
エサヤはゆっくりうなずいた。「森は、奪いに来た者には道を見せない。精霊たちに会い、ここで生きるものの声を聞いてごらん」。5匹はルーカスに見送られ、霧のかかった森の奥へ進んだ。
最初に道を失った時、ボブは『ナイトスティルブリュー』の力で静けさを取り戻した。「少し、黙ってみよう」。耳を澄ますと、霧の向こうで葉が同じリズムに揺れている。その音をたどると、細い道が見えてきた。
倒木が道を塞ぐと、ポピーが『フリーダムスケート』で周りを探った。木をどかそうとするのではなく、根の間に残された隙間を見つける。「ここなら通れるよ!」。違う見方をしただけで、行き止まりは道になった。
ぬかるみでは、ジョンが足を止めた。「ちょっと待って。この先、沈みそう」。『アースシールド』で大地の力を借り、仲間が渡れる足場を整えた。全員が渡ると、ジョンは近くの石に座り、「僕も、ちょっと休憩」と息をついた。
サムは『スローブリュー』で、慌ただしい時間をゆっくりほどいた。急いでいたポピーも、迷っていたボブも、ひと息つく。サムが小さく笑う。「森は、逃げないからね」
やがて風と大地の精霊が現れた。

ニュースは『マインドリンク』で、その言葉にならない思いを聞いた。「欲しいのは、強さじゃない。この森と、一緒に歩く気持ちなんだ」。5匹は木々に触れ、ここまで導いてくれた森に感謝した。霧が薄くなり、奥から虹色の光が差した。
虹色の実から、一杯へ
森の奥の古い木に、虹色に輝くコーヒーチェリーが実っていた。
『ジェブラの虹』だ。ポピーが思わず手を伸ばしかけ、止めた。「これ、そのまま飲めるわけじゃないよね?」

木陰から現れた動物たちが笑った。「一杯になるまでには、まだ時間がかかるよ」。エサヤとゾウたちは、熟した実を選び、果肉を丁寧に取り除いた。中から出てきた豆は、まだ5匹が知っている茶色の豆ではなかった。
バッファローたちが乾燥棚へ運び、ガゼルたちが風と光を確かめながら、豆の乾燥を見守った。5匹も手伝いながら、その土地で流れる時間を過ごした。いつ乾くの、と尋ねかけたポピーは、サムの顔を見て、少し笑った。
乾いた豆は殻を外して選り分けられ、焙煎の火へ。やがて、香ばしい匂いが広がった。実の中に眠っていた香りが、ゆっくり目を覚ますようだった。ボブは何も言わず、その変化を見つめた。
ワシミミズクが豆を挽くのを手伝い、湯を用意した仲間たちと、サムが丁寧にコーヒーを淹れた。落ちてくる一滴を見ていたニュースは、ノートをいったん閉じた。今は書くより、見ていたかった。
見つけたのは、豆だけじゃない
5つのカップに、温かなコーヒーが注がれた。
ボブがひと口飲む。果実のような香りの後から、いくつもの味が静かに重なった。「……ひとりで見つけていたら、きっと、この味にはならなかった」
ポピーはうなずき、ジョンはカップを持ったまま目を閉じた。「これは、眠いからじゃないよ。もう少し、味わってる」。サムが笑う。ニュースは、その言葉を今度こそノートに残した。

エサヤが隣に腰を下ろした。「森も、雨も、風も、豆を育てる者も。この一杯には、たくさんの時間が入っている」。5匹は、自分たちのカップと、周りの仲間たちのカップを見た。見つけたのは珍しい豆だけではなかった。
森を出る朝、ルーカスはバスの扉を開けて待っていた。5匹の荷物には、大切に分けてもらった豆と、出会いの記憶が加わった。ボブが星のカケラを地図に置くと、次の光がケニアの方角へ伸びた。
「次の場所でも、ゆっくり飲む時間はあるよね」。ジョンの言葉に、みんなが笑った。カファの森が窓の向こうに遠ざかっても、コーヒーの香りは、まだバスの中に残っていた。